ワイン造りとCD造り

2008年の秋、満月倶楽部で三回目のデモCDを作りました。もちろん、いろいろと苦労はあったわけですが、音楽以外の事で悩んだ事の一つに、デモCDのタイトルをどうするか、という事があります。

タイトルといってもそんなに大層なものではなく、「2008神無月」にするのか、「2008霜月」にするのか、と言うことです。録音したのは神無月ですが、完成したのは霜月です。さあどうする?

雑誌などですと、前年の12月には新年号が出ます。12月中にお正月の特集を組まれたりするのも、子供の頃から気持ち悪かった記憶がありますが、これは多分、読み捨てられるメディアとして、少しでも鮮度を保ちたい、という発想なのでしょう。

一方ワインにおいては、収穫した年をラベルに表示します。収穫してから様々なプロセスを経るので、実際に出荷されるのは、普通早くて翌年なのですが、それでもラベルに表示されるのは、あくまでブドウが収穫された年です。

そんな事をつらつらと考えているうちに、ワイン造りと音楽CD造りを対比させてみよう、などと愚にも付かないことを思いつきました。

以下は、2008年11月にブログに綴った文章を加筆修正したものです。

1.曲作り

猫譜面
まず、曲を作ります。

満月倶楽部の場合、とにかく僕が譜面を書くところがスタートです。
これはワイン造りで言えば、木を植える事に相当するでしょうか。植える畑は決まっています。ハープとアコーディオンという畑です。

その畑に、どんな品種の、どのクローンの木をどれくらいの間隔で植えるのか。メジャーの曲か、マイナーの曲か、和風の曲か、スウィングした曲か、ボサノバ調か、ワルツか、キーは何にするか。イントロはどうするか、どう展開してどう終わらせるか。

などなど。
もちろん、300年近くも前に、J. S.バッハによって植えられた木のブドウを収穫する、なんて場合もあります。

2.剪定

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さあ、譜面を書きました。各自練習してから合わせます。色々と問題が出てきます。

ブドウの木が育ってきますと枝は勝手にあっちゃこっちゃ行きます。

それを垣根仕立てにするのか、株仕立てにするのか、つまりは、しっとりと演奏するのか、奔放に演奏するのか。まあこれは畑に木を植えた時から決まっているわけですが、それに合わせて枝を剪定する必要があります。

そして、大切なブドウにしっかり日光が当たるように、邪魔な葉を切り取り、特定の房がしっかり熟すように、いらない房を切り取ります。これをグリーンハーヴェストと言います。

譜面を書いた段階で必要だと思っていた音が、実際鳴らしてみると、一番聞かせたい部分の邪魔をしていたりすることもあります。

そういうときは思い切ってその部分を「グリーンハーヴェスト」する必要も出てきます。

3.リハーサル

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肥料をやったり、農薬を撒いたり。時には灌漑も必要かもしれません。
日々、ブドウの様子を見ながら、手入れを怠るわけにはいきません。

どの部分をどう聞かせるのか。

どっからどう盛り上げるのか。

ハープとアコーディオンのバランスはどうか。

テンポはどのくらいが良いのか。

リットの仕方はどの程度か。

することは沢山ありますが、そんなことを繰り返しているうちに、ブドウは色づき始めます。

ヴェレゾン期を迎えると、収穫は間近です。

4.収穫

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収穫は、写真のようにして行われます。

どの角度で、どの距離でどんな風にマイクを立てるか、まずは、これで全体の方向性が決まってしまいますので、慎重に決定する必要があります。

ブドウの収穫においては、一般的に、機械摘みよりも手摘みの方がよしとされます。

ブドウの実を傷つける事も少なく、ちゃんと熟した房だけを確実に収穫することが出来るからです。ただし、人件費が高く付きます。

ブドウの品種や、地方によっては、収穫日が一日違うだけで、ワインの出来が全然変わってくる、と言う事も起きてしまいますので、ベストのタイミングで収穫しようと思うと、長い間、作業人を確保しておかなければならず、これまたコストのかかる事になってしまいます。
R-44
U87
それでも、最近は、機械も大分進歩してきました。

これら上の写真のような最新鋭の機器を使えば、比較的短時間のうちに、ブドウの実を傷つける事なく、葉っぱなどの混入も最低限におさえて、ブドウの房だけを収穫する事ができます。

上から、ローランドのR-44、ノイマンのU-87と言います。

5.運搬

収穫されたブドウは、底の浅い容器に入れられて、ワイナリーに運ばれます。

余り大きな容器に入れると、上のブドウの重みで下のブドウがつぶれてしまいます。収穫したブドウ容器の深さを見るだけで、そのワイナリーのこだわりがわかるわけですね。

なるべく温度を低く保ちつつ、なるべく早く、選果、除梗、圧搾、発酵といった次のプロセスに移る事が肝要です。

酸化を防ぐ為に、収穫直後に亜硫酸を添加します。

温度が高い方が酸化しやすいので、夜明け前の、一番温度の低いうちに収穫をすませる栽培家もいます。

先ほど述べた、選果、除梗などのプロセスも、やるかやらないかはそれぞれのワイナリーの判断になります。どの土地で何の品種で作られたワインなのか、という事と同じくらいに、誰がどのようにして作ったのかが大切なわけですね。

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写真の様な容器ならば、収穫直後の鮮度を完璧に保ちつつ、ワイナリーに運ぶ事ができます。

しかも大容量です。32ギガバイトです。CDクオリティのステレオファイルならば、50時間分以上の容量です。

小樽に換算すると、何百個分になるのでしょう。ちょっとわかりません。が、一人で一年では飲みきれないほどの分量ではないかと想像します。

6.発酵

recroom

今日のワイナリーは、コンピュータ制御の最新鋭の機器で埋め尽くされています。

これらを駆使して、最高のワインを作るのが、エンジニアの腕の見せ所です。
MacPro

下の写真は、鎮座まします巨大な発酵タンクです。MacProと呼ばれています。

これ以降、完成までにはまだ様々なプロセスがありますが、ほとんどのプロセスは、このMacPro内部で済ませることが出来ます。

音楽製作の場合は、ワイン造りとは違い、出来の良い物も悪い物も、とにかく一旦全部ぶちこみます。取捨選択はその後の作業となります。

下の写真のように、出来の良いブドウだけを並べることが出来ました。使用しているソフトは、Digital Performerです。
DPwave
赤い二本の線に挟まれた部分が、ハープの波形、その下、ギザギザが少ないのがアコーディオンの波形です。アコーディオンの波形にも、少しギザギザがありますが、これは、ハープの音が回り込んでしまったものですね。

完全防音の別室で録音するわけではないので、どうしても音は回り込んできます。

7.マセラシオン

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赤ワインの場合、ブドウにしっかりと色とタンニンをつけるには、一定期間、ブドウの果皮や種、時には果梗をジュースにつけ込んでおく必要があります。

この工程を「マセラシオン」といいます。

音楽では、音のレベルが余り小さいと、しょぼく聞こえてしまうので、ある程度レベルを稼ぐために、コンプレッサーもしくはリミッターを使います。

あんまり「つぶし」過ぎると、音がガシガシになってくる所も、ワインに似ています。

 

8.澱引き

Gate
発酵が進むと、酵母の死骸やら何やらが塊になって液体の底に溜まってきます。

これを「澱」といいます。タンクの底に溜まった澱を、その直ぐ上から液体を抜き取る事によって除去する「澱引き」という作業が必要になってきます。

今回は使っていませんが、一定以下のレベルの音をノイズと見なしてカットしてしまう機能です。ノイズがくぐることが出来ない門を作る、という意味合いで「Noise Gate」と言うeffectです。

普段は「げえと」と呼びます。

ハープの様な減衰系の楽器や、満月倶楽部のような、繊細な音楽にはあまり向いていない機能です。

9.清澄濾過

EQw2
Parametric Equalizerを使って、気になる周波数をカットします。文字通りのフィルターによる清澄濾過作業。

ワイン造りの場合には、卵白などを清澄材として使うこともありますが、音楽の場合は、残念ながら卵白を使っても好ましい結果を得ることは出来ません。

実際には、手作業で、一つ一つノイズを拾っていく、なんて事もします。

10.樽熟成

R-3

適度な樽香は、ワインの風味を豊かにしてくれます。

作りたての樽を使えば、木の香りがより多く付きますし、樽の内側に焦げ目を付けると、焦げた香りを付加する事もできます。

一般にフレンチオーク樽が良いとされていますが、家ではヤマハ製ジャパニーズ電子樽(なんのこたあない、ただのリバーブです)を使います。

使いすぎると、本来の味がぼやけて、どんどん下品になっていく点は、いずれの樽も同じです。

11.マスタリング

Finalizer

そしてマスタリングの直前には、ミシェルローランが大好きな微酸素処理。

ちょっと違うか。周波数帯域を三つにわけて、それぞれ独立したコンプレッサーをかけます。

これにより、自然な感じで音圧が稼げますし、音全体を落ち着かせるような効果もあります。

瓶詰め直前のプロセス、と考えれば、別の樽のワインをブレンドする事で、樽ごとの差を減らし、ワインを均一化させる工程と言えるかもしれません。

12.ティラージュ

MacProCD

シャンパーニュ造りにおける瓶詰め作業のことを、ティラージュと言います。

瓶詰め前に糖分や酵母を加えることによって、瓶の内部で、もう一度アルコール発酵を起こします。

13.完成

Wine26CD
スティルワインの場合、瓶内二次発酵は起こりませんので、ラベルを貼って、出来上がり、ということになります。

お疲れ様でした。

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